空 中 城 設 計 図

「ほんとにお話なのよ。何だってかんだって物語だわ。
 あなただって一つの物語だし――私も一つの物語よ。」
(菊池寛訳・バァネット『小公女』より)

( スワローテイル・コート )
ポケットに月明り
使い古しのマスカレード
釦孔の分だけ虚ろ
仕立てくらいは軽やかに
鬼百合に懸想する馬鹿
よくお似合いの白々しさ
細い肩と勲章
越冬地の春
( 黄色と薔薇の相性 )
憐姫と緑眼の結婚
薔薇晶系
青金石の金だけ集めて
女王陛下の白ペンキ
破硝子の疲れた黄色
薔薇色戦争
陽のひかりに身を染めて
ソレイユ・ドールに口付けを
( 風景式庭園 )
ヘリオドールの春栄
菊花は猶も微笑む
冬咲き撫子
別れ路の白い崖
青騎士革命
靴底で潰れた花卉
檸檬の花は黄水晶の夢を見る
その色彩で私を泣かそうというのでしょ
( 未整理の抽斗 )
書類と署名
借りっぱなしの襯衣
一枚限の写真
屑入れは澱で満杯
あの日の化石
君の為のキャンディ缶
時折開いては毎度同じ溜息を吐く
鍵は疾うにお前のもの
( 赤い封蝋と白い便箋 )
未踏の言辞
洋墨黒の縺れ
"Your true friend"
精精ご自愛なさいませ
検閲により削除
代りに寄越した詩の文句
マリーシャープス・ラブレター
ある一通が封じた星霜
( 屋根裏より )
ここには過去くらいしかない
綿羊さん背伸びして
遺失物取扱所
灰色の空を何で染めようか
ままごとみたいにきらきらね
旅人は既に死んだ
勿忘草の鉱脈
採掘権者不在のなかで