水 溶 液 と 結 晶

いま、お日さまは、海の上にのぼりました。その光は、やわらかに、あたたかに、死のようにつめたいあわの上にさしました。
(楠山正雄訳・アンデルセン「人魚のひいさま」より)

( アプサント幻想 )
青薔薇の火
絢爛たる寂寥の群れ
禁断の幻はやがて燃え尽きる
水に濁るペリドット
一滴の価
悪夢だけが私を救う
緑眼の怪物
糖蜜を焼き尽す法
( 各色結晶育成キット )
色硝子の硬度
罅われに注ぐ夢想
それは水晶宮のように
透明をすくうゆび
仄かに紅いジュレ
析出は無音
誰も知らない水の底
あのころ科学だったことども
( 虹彩にイリス )
残像の彩度と眩暈
その美しい眸を前に
虹を繋ぐ術
一対の暗渠が私を押し流す
眼眸の黄金を知れ
傲慢な美を拒めない
赤く錆びた鏡面
女神ならあの子に届けてくれ
( 窓硝子磨硝子曇硝子 )
曇りがちの扉銘
硝子戸と枳殻の棘
はやくなかへお入り
透き通った拒絶
夜汽車は蜃気楼を運ぶ
たがいの鏡像に向けて
赦しよりも愛を乞え
冬が忍び込む
( ミアシャムパイプ )
我々は海さえ踏み躙った
セイレーン狩り
涙に火は点かない
蜂蜜色では甘すぎる
虫入琥珀の気泡
さみしいにおいの煙草
大人のわるいくせ
私が白を捨てさせた
( あの海の底 )
手向けの花をふたつ
どうせソロモン・グランディ
それでも私は快哉を叫ぶ
最早や惜しまれない親愛のために
キングストン弁
何も救わないお前でいい
fin del mundo
未だ平行線上の彼へ