《そうだね。では、炎は何色だと思う。》
青。そして白。その中に赤。
《よろしい。では、炎は何だと思う。》
星星。あるいは、魔法。それとも、約束。
《いいだろう。》
《では、炎は闇に浮かべるとしよう。》
#0
わたしはそこで目覚めた。目を開けると、ママがわたしの顔をのぞきこんでいた。
「おはようユージェーヌ。やっとお目覚めかしら?きょうのあなたはずいぶんお寝坊さんだこと。」
ママはわたしがぱちぱち瞬きしているのを可笑しそうに見ている。いつもの朝よりもずいぶん明るいような気がして、わたしは急いでベッドから起き上がった。窓の外を見ると、もうすっかり日が高い。昨夜の嵐の名残で、木々の葉っぱに水滴がきらきら光っていた。
「ごめんなさい、ママ!夜更かししたんじゃないのよ。どうしてか、きょうの夢はママの声が届かなかったの。」
いつもならママの声が聞こえるとすぐに目が覚めるのに。こんなに明るくなってからやっと目覚めるなんて、わたしはいったいどうしちゃったんだろう。
「まあ、起きたくないくらい素敵な夢を見ていたのね。いったいどんな夢だったのかしら。ママにも教えてくれる?」
わたしはとても悔しい気持ちでいっぱいだったけれど、ママはちっとも怒っていなかった。よそのお母さんは寝坊するとすっごく怒るっていうのに、うちのママはどうしてにこにこしているのかしら。ママが笑っていると、わたしはよけいにこんどは絶対ちゃんと起きなくちゃって思うのだけど。
「あのね、不思議な夢だったの。とても不思議な、魔法の夢。」
「魔法?それは素敵ね。どんな魔法だったのかしら」
「それが、よく思い出せないの。ながいながい魔法だったわ。わたしが呪文を唱えるのだけど、それがたぶん、パパの呪文なのよ。」
――パパ。
思わずといったようすで呟いて、ママは目を丸くしていた。わたしとママはあまりパパのことを話さないからかもしれない。わたしはパパのことを覚えていないし、パパに関係のある夢をみるのも初めてだった。
「それはほんとうに不思議な夢ね。ママも見てみたかった。」
そういってママはちいさく笑うと、スカートをふんわりさせて身をひるがえした。
「スープを温めてくるから、はやく着替えていらっしゃい。」
はあい、とママの背中に返事をして、わたしはベッドから飛び降りた。悪い夢じゃなかったけど、ママを困らせるのはよくない。夢のことはもう言わないでおくことにしたほうがよさそうだ。もうすこし大きくなったらきっといろんなことがわかるのじゃないかしら。
そのときまで覚えていられるように、書き留めておけるといいのに。思い出そうとしても、頼りない幻がゆらゆら燃えるだけで、言葉になるほど確かなものがつかめない。
でもたぶん、なにか美しいものだったのはわかる。
美しいから、ママは悲しいのかもしれない。
パパはそういうふうに、ママを悲しませたのかもしれない。