#12 鏡の塔へゆく汽車

ふたりを乗せた汽車は、ことこと揺れながら、鏡の塔へと走ります。
ドロシーがトランクに入れてきたミルクキャンディーを舐めながら、ふたりは話し合っていました。








ドロシーさんの夢にうさぎさんが来たのも、きっとおばさま――女王さまの推薦があったからだと思うの。ドロシーさんと鏡ごしに話していて、ぜひドロシーさんにもすてきなお庭を見てほしいと思ったのよ。
じゃあ、もしかして何もかも女王さまの導きなのかしら?
いいえ、そんなことはないわ。うさぎさんは、うさぎさんのしたいようにしかしないと思うの。お庭の持ち主は黒猫さんだしね。
ああそういえば。お庭のなかで、乳の川辺にいくよう勧めて近道までくれた男の子はだれだったのかしら。キティは会ったことある?
ええ、あるわよ。あの子のことは、おばさまにもはっきりとはわからないようだったの。黒猫さんでもうさぎさんでもないのは確かね。




お庭から《黒猫屋》へもどるときに、ぐるぐるまわりながら黒猫をみたわ。もしかして、あれが例の黒猫さんなのかしら。
きっとそうだと思うわ。影だけなのか、ほんとうにいたのかはわからないけど、黒猫さんはよく戻れずに困っているひとを助けてくれるのよ。
にゃあ、と聞こえて、気がついたら戻っていたわ。こんどは黒猫さんとお話がしてみたいなあ。黒猫さんは、黒猫のすがたでお話ができるかしら。




猫さんやうさぎさんのことを考えてたら、なんだか眠くなってきちゃった。
ドロシーさんったら。また寝過ごしてしまうわよ。
あら、キティが起こしてくれるでしょう?
そうね、まだすこしかかりそうだし、わたしが起こすからドロシーさんはねむっていて。
ありがとうキティ。

いやだわ。わたしもねむくなってきちゃった。
どうしよう。とってもきもちいい。








汽車の中で、ふたりはけっきょく目を覚ましませんでした。つぎに目を開けるのは、鏡の塔のてっぺん、女王さまの天蓋ベッドの上のことです。同時に目を覚ましたふたりは、ぱちりと開けた目に女王さまのにこにこしたお顔がとびこんできてびっくりすることになるのですが、 それはまた、別のお話です。