#2 《Oz》に降りて兎時計

ドロシーがつむっていた目をあけると、赤いのはドロシーが抱いていた真っ赤なトランクの色だとわかりました。そう、つまり、ドロシーは目を覚ましたのです。ちかちかする目をこすって汽車の窓の外と、客車の中を見まわしますと、外のけしきも中の乗客も、なにもかもはじめて見るものばかりでした。すっかり寝過ごして、知らないところに来てしまったドロシーは、しばらくきょろきょろして困っていました。

「ああ、困ったわ。」
と、ドロシーが五回目のためいきをついたそのとき、汽車が駅に停まりました。プラットフォームに《Oz》という看板が見えます。太陽のひかりを浴びてつやつや光る色とりどりの駅でした。





これが《Oz》の駅看板です。



ドロシーはここで反対方向の汽車に乗り換えることにして、赤いトランクを提げて汽車を降りました。プラットフォームには群青色の制服を着た駅員さんが紅い旗を持って立っていました。ドロシーは鏡の塔に行く汽車は何番のりばから何時に出るのかたずねました。というのも、《Oz》は数え切れないほどのりばがある大きな駅であるようなのに、案内板のひとつもみあたらないのです。親切な駅員さんは、次の汽車は三時間後に19番のりばから出ると教えてくれました。

三時間も駅のなかでなにをしていよう、とドロシーがためいきをつきますと、うしろから話しかけてくる声がありました。

「おじょうちゃん、シャーベットを飲んでいかないかい?シャーベットがいやなら、乳でも、チョコレットでもいい、《Oz》に来たなら《黒猫屋》に寄らなけりゃ!」

ドロシーがふりむくと、黒猫のような耳のついた真っ黒いフードをかぶっている小さな男の子がチラシを差し出してきます。銀色に光るふしぎなチラシを受け取ると、そこにはこう書いてありました。






《兎時計》ってなにかしら?
そう思ってドロシーがまわりを見まわすと、ありました、ドロシーが立っている真正面の柱の、うさぎが背伸びをしたくらいの高さに、うさぎの形をした金色の時計がかかっています。
チラシのとおり、ドロシーは左向きに15歩歩いてみました。すると、そこは菫色の美術ポスターの貼られた壁ぎわです。右がその菫色ポスターなので、右折しようがありません。

困ったドロシーが菫色のなかに浮かんでいた銀色のお月さまをなでてためいきをつきますと、お月さまがぱっと口を開けてドロシーを呑みこんでしまいました。そこからは、まっくらな闇のなかに浮かぶ星型の光る飛び石を跳んで9歩、ほうき星を二つ踏みこえて2段。

真っ黒いなかに猫の形の鍵穴が見えたので、手さぐりでドアノブをつかんで、左向きにまわすと、そこはもう《黒猫屋》のなかなのでした。