#9 ふたたび《黒猫屋》

「お待たせしました。タート一切れと熱い乳をお持ちしました。」

キティはお決まりのせりふを言って、熱い乳の入った陶器のカップと、タートののった白磁のお皿をテーブルにことりと置きました。でもドロシーはまだ回転の余韻からさめず、おいしそうないちごのタートも目に入っていないようすです。キティは、もういちど、そっと声をかけました。

「おかえりなさいドロシーさん。コースターのお庭はすてきだったでしょう?乳の川へは行った?」

ドロシーは、やさしくほほえむ銀色のキティに、そのときやっと気が付いたように目を丸くしました。びっくりしたきもちが、じんわりうれしくなって、しまいにはとっても昂奮してしまい、ドロシーは早口で言いました。

「ああキティ!すごくきれいだったわ。そしてとってもふしぎ。でもなんだか、乳の川はかなしかった。ああでも、きれいでやさしいの。でもでもなみだがでそうになるところでね、」

キティは、混乱したドロシーの話をうんうんうなずきながら、楽しそうに聞いてくれました。途中でいちどだけドロシーをさえぎったのは、 「乳がさめてしまうから、食べながら話すといいわ。」 と言ったときでした。それを聞いたドロシーは乳をひとくち飲み、タートをひとくち食べ、あっと声をあげました。

「これ、コースターのお庭でたべた、熱い乳といちごと同じ味がするわ。」
「ええ、そうでしょうね。《黒猫屋》であつかうものは、みんなあのお庭からとってくるのよ。」
「じゃあ、あれはキティのお庭なの?」
ドロシーはとても意外だと思って、くびをかしげながら言いました。

「いいえ。あれは、黒猫さんのお庭。うさぎさんのお友だちで、このお店の名まえの由来になった黒猫さんなの。」

キティは、笑って首を振ると、とってもふしぎで、おもしろい、ながいお話を聞かせてくれました。(ドロシーは、キティのじょうずなお話を、途中でいちどだけさえぎりました。「キティも座って、いっしょにこのタートを食べましょうよ」と言うためです。)

黒猫さんとうさぎさんのお話は、だいたいこのようなものです。