Azoth
或いは、カンバスにおける虹彩の色
おまけ ものがたりの構成物質たち


当初、月明博士は青みを帯びた綿飴の上に海水をどぼどぼ注いで、最終的に水色のわらび餅みたいなぷるぷるしたモノを作る予定でした。その実験の最中に帰ってきたぼくは降矢とけんかしたことを話し、博士にとっておきの一人用ラムネを飲ませてもらうのです。透明菫青のラムネ壜を、ラムネ開けを使ってしゅぽんと開ける動作が、青色アゾートの卵を割る動作になります。ラムネを飲んで小鳥になるので、水色わらび餅はストーリーにまったく関係ありませんでした。実験シーンが無意味なのはあんまりなので、青色アゾートとか卵とかにかわっていったわけです。

「卵」や「孵化」というキーワードは、頂いたきり消化できていないお題「羽化する娘」からの連想です。それから、薄紅色と水色の混じった羽を持つ小鳥の絵葉書がお気に入りで、以前からおはなしに使おうと決めておりました。長野まゆみ『少年アリス』の卵のイメージもあったかもしれません。

小鳥が行き着く部屋の風景は、わたしが好きなものの寄せ集め。 「傘の春模様」とちらっと書いてあるのは、ずっと前に送ったた某傘店製絵葉書の黄緑の花模様です。そのほかの家具や雑貨類も、どこかの店先で見て印象に残っていたものや、インターネットで見つけたものを書きました。キャビネットの中身は、油絵に必要な用具を調べて降矢くんの部屋っぽくしようとしています。ちなみに、「円テーブル」が「円卓」でも「丸テーブル」でもないのは稲垣足穂『一千一秒物語』にかぶれているからです。

そして駱駝が話しかけるわけですが、これも駱駝の絵葉書を持っていたのでそのまま登場させました。あまり可愛い絵じゃないのですが、メルヘンでない変な絵柄にインパクトがあるのです。駱駝を書いた絵描きに意識が行ってるのは、NHKの美術番組ばかりしょっちゅう見ているせいだと思います。

やさしげな駱駝のおしゃべりが終わると、次のキャラクタとの会話は雰囲気を変えるべく唐突にはじまります。はじめは「アリス、時間だ」といった直後、兎はぼくを「メアリアン」と呼んで手袋を取ってこさせる予定でしたが、あの錬金術師の兎にしてはちょっとエキセントリックすぎるかということで「アリス」のみになっています。兎を砂時計にしたのは、「兎といえば時計」で、「蝋燭といえば砂時計」だからです。『蝋燭の焔』好きが炸裂しています。種明かし場面ですが、この兎があの兎で、夢でなく時計になって現れたのは……というような設定をどの程度出すか悩んだ結果、青色アゾート関連以外は端折りました。

月明からの招待状の文言は、書きかけのAzoth第0話のコピー。Petit Oiseauは小鳥という意味のフランス語ですたぶん。「一千一秒物語」のフランス語タイトルのやつがお月様だの塔だの黒猫だのの大元なので分かりもしないのにフランス語。封筒のデザインはわたしが京都の雑貨屋で衝動買いしたものを脚色しました。このあいだチラシ風お手紙を入れたアレです。
それを燃やすために砂時計が蝋燭になるなんてそんなのあたりまえです。と断言する。あたりまえだからあっさり変身。『蝋燭の焔』です。

燐寸のラベルに関して、4話で月の絵のラベルの燐寸と書いたときは何も考えてませんでした。でも月明博士を登場させるにはちょうどよかったので活用。最近おしゃれな燐寸ラベルとかよく売ってるのでなんとなく燐寸をおいといた過去のわたしグッジョブと第五章を書きながらばかばかしく自画自賛してました。

ここにきてやっと降矢くんのご登場。ぱちぱち。兎の冷たい態度と降矢のポーカーフェイスは、兎と似てる降矢、黒猫に似てる水城、という対比をだしたかったので大げさに。あと、降矢くんはせいいっぱいかっこよくないと、ただの愛が重いキャラになりそうで……。顔に出ないクールキャラ=かっこいいという短絡思考をおゆるしください。

彼がかっこよく?絵筆で燈す金色の焔、「炎」じゃだめなの?と聞いてはいけません。黄金は大事なので長々とたくさん字数を使って火をつけてもらいました。だってこれは錬金術師のはなしなんだもの!(そうだっけ?)練成途中にリンと鳴るのはそのほうが緊張感とか静かな感じとか出るかなって思ったからです。薄紅〜金のグラデーションの研究のため色名のサイトも見たんですが、けっきょくは素朴で可愛い感じになりました。

封筒の燃え滓が月長石と卵殻の粉末なのは、お月様=月明博士を演出するために月そのものっぽいものと、青色アゾートの卵製作で月明博士が使ってたものにしたからです。普通に灰にしようかとも思ったんですが、のちの展開で再利用するためになんにでも使えそうな雰囲気のにしときました。

降矢くんは小鳥くんの真名まで見破っちゃうよ!名前を見破られて正体が戻るってのは定番ですよね。「クラバート」とか「千と千尋」とか。「カードキャプターさくら」のクロウカードのミラーとか。アリス(仮)の本名は、無名の予定ののち、瑞木の予定になったけど字面がかわいくないのでさらに変更して水城になりました。水木でもいいけどゲゲゲの女房を毎朝チェックしてる身としてはつけづらかったので。降矢と同じ、名前だか苗字だかわからん名、訓読み漢字の名、という縛りでおそろいです。そして兎はアリスと呼び続けます。なぜって、それはわたしが名前だけでもアリスを出したかったからです。

このへん説明セリフでごめんなさい。青色アゾートの詳細をいちおう兎に解説させました。別にいいかなとも思ったけど、やっぱりむだに謎を残すのはよくないかなと思い直し、入れられそうなことはいちおう本文に。

物語はおしまいに向かって、月明博士再登場です。こういうキャラはいたたたたと言いながら出てこなきゃいけない気がしました。元ネタはあるのかもしれないけど思い出せない。だれかおしえてください。でもお月様がブリキの贋物で、おちてきちゃったりするのは完全に「一千一秒物語」です。大好きなので、わたしもやってみたかった。そのとき使うパチンコは、ほらあの、ふたまたの、Yみたいな!こういうとき使うのはやっぱり玩具がいいよね。兎がピストルとか弓とか出したらかっこいいかともおもったけど物騒なのでやめました。落ちたブリキの月は、あとで近所の星とかに拾いに行かせるんだと思います。そして修理して再利用し、またさぼる。

お月様の白いパイプはメシャムパイプとかミアシャムパイプとかいうやつで、海泡石でできています。使い込むと琥珀色になるらしいです。キアラン・カーソン『琥珀捕り』に出てきたのを見てからずっと出したかったので今回無理やり出しました。三人わいわいしゃべらせながらもパイプあるよアピール文をがんばって入れた。パイプは執筆中変遷の激しかったアイテムで、仮面男というキャラがだったかと思えば黒猫さんの変身だったり色々でした。でも結局は月明博士の出番優先で、金色の鍵に変化させることに。お月様なら銀だろって思うんですが、琥珀色のパイプを出したかったし蝋燭の炎も猫の眼も金だからからもう金でいいかなって諦めました。宙返りして変わるのは前作からのパターンです。

ついに締めくくり部分。「ページをめくって」という言い回しは、最後にぜったい入れたかった。そしてページをめくるといえば、やっぱり兎穴でしょう。せっかく兎を出したことだし。ずっと蝋燭が燃えっぱなしでほったらかされてたので、なにかに使えないかと考えながら書き進めていたので、最後の最後でやっとリサイクルに成功できてヤッターと叫びました。穴の感じはドラえもんのタイムマシンの穴の白バージョンを想像してください。

青眼兎さん最後のセリフ、「紅い眼のページでお会いしよう」というのは、入れられなかった無駄設定をねじこんだ作者の悪あがきです。このおはなしにおける兎が青眼なのは青色アゾートの立会人だからであって、庭ではアゾートの造り主として君臨するので通常色の赤なのです、ということになってました。

そろそろほんとに最後の場面。そもそも青色アゾートは《Z to A》ですから、兎をおいかけて穴におちるというはじまりのシーンで終わりにしました。さかさまなのです。「はじめることにしよう。」という文章も、そのつもりで書きました。

というわけで、青色アゾートのおはなしはおしまいです。最終章が詰め込みすぎとかいろいろ駄目駄目ですけれど、ともかく完結。ここまでお付き合いありがとうございました!




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2010/7/28